ネジ部分の「見えない毛」がシザーの寿命を縮める?正しいセルフメンテナンスとプロの領域

毎日何人ものお客様の髪を切り、相棒として活躍してくれるシザー(ハサミ)。営業終わりにセーム革で刃をサッと拭いて、ケースにしまって帰る。そんな毎日のルーティンをこなしている理美容師さんは多いと思います。

しかし、研ぎ師として日々全国から届くシザーを分解していると、ある事実に直面します。

それは、ネジの隙間や触点(シザーの交差する根元部分)に、大量の「見えない細かい毛」が詰まっているという事実です。

「刃先は綺麗にしているから大丈夫」と思っていませんか?実は、このネジ周りに潜む微細な毛玉こそが、数万〜十数万円するシザーの寿命を人知れず縮めている最大の要因の一つなのです。

今回は、ネジ部分の毛がシザーを破壊する理由と、サロンでできる正しいセルフメンテナンス、そしてプロに頼むべき領域について解説します。

なぜ「見えない毛」がシザーの寿命を縮めるのか?

ネジの隙間に入り込んだ短い毛やキューティクルの欠片。これらを放置すると、シザーの内部で以下のような悪影響を引き起こします。

毛が「ヤスリ」となって金属を削る

髪の毛は、皆さんが想像している以上に硬い物質です。ネジの隙間や触点に毛が挟まったままシザーを1日何千回と開閉すると、毛が微小なヤスリのような役割を果たし、金属(触点部分)をゴリゴリと削り取ってしまいます。これにより、シザーのガタつきや偏摩耗が引き起こされます。

水分と薬液をスポンジのように溜め込み「サビ」を呼ぶ

髪の毛は水分を含みやすい性質があります。さらにサロンワークでは、パーマ液やカラー剤などの化学薬品も飛び交っています。ネジ周りに詰まった毛はこれらの水分や薬液をスポンジのように吸い込み、シザーの心臓部であるネジやベアリングを内部から猛烈なスピードでサビさせてしまいます。

毛が「ヤスリ」となって金属を削る

毛玉がクッションのように挟まることで、ネジの締め具合が不安定になります。「なんだか最近、ハサミの開閉が重い(または軽すぎる)」と感じる場合、ネジの緩みだけでなく、内部の毛の詰まりが原因であることも多いのです。

美容師さんがやるべき「正しいセルフメンテナンス」

この見えない敵からシザーを守るために、サロンでできる正しいケアとは何でしょうか?

日々の拭き取りと「こまめな注油」

最も効果的なのは、専用のシザーオイルを使った注油です。

  1. 営業終わりなどに、シザーの刃をセーム革や柔らかい布でしっかり拭き取ります。
  2. ネジの隙間(触点部分)にオイルを1〜2滴垂らします。
  3. シザーを数回パカパカと開閉させます。
  4. すると、内部に入り込んでいた細かい毛や汚れが、オイルと一緒に黒い汁となって浮き出てきます。
  5. これをティッシュや布で綺麗に拭き取ります。

オイルは「潤滑」のためだけでなく、内部の「汚れを押し出す(洗浄する)」という重要な役割を持っています。これを週に1〜2回行うだけで、シザーの寿命は延びます。

ここから先は「プロの領域」

シザーを大切に思うあまり、ご自身でどうにかしようとして逆に壊してしまうケースも後を絶ちません。

ネジを完全に分解して掃除する

「毛が詰まっているなら、ネジを外してバラバラに洗えばいいのでは?」と思うかもしれません。 シザーのネジは、ワッシャーやパッキン、ベアリングなどがミリ単位以下の絶妙なバランスで組み込まれています。一度バラバラにすると、素人の手で元の完璧なテンションに戻すことは大変むずかしいのです。

市販の機械用潤滑油(CRCなど)を使う

ホームセンターで売っているようなスプレー式の防錆潤滑油は、シザーには適していません。粘度が低すぎて必要な油膜まで流してしまったり、逆に成分が固まって動作不良を起こしたりする原因になります。必ず「理美容シザー専用」のオイルを使用してください。

まとめ:シザーの不調を感じたら、分解せずに研ぎ師へ

「ネジ周りの毛が取りきれない」「オイルを差しても開閉の違和感が直らない」「サビてきている気がする」

もしそう感じたら、決してご自身で分解しようとせず、プロの研ぎ師にお任せください。私たち研ぎ師は、刃を研ぐだけでなく、シザーを一度完全に分解し、特殊な洗浄液で内部の毛や汚れを一つ残らず除去してから、新品同様のバランスに組み直します。

毎日の正しいセルフケアと、定期的なプロのメンテナンス。この両輪が揃って初めて、あなたの大切なシザーは長く、最高のパフォーマンスを発揮し続けてくれます。

今日からぜひ、ネジ回りの「見えない毛」を意識したメンテナンスを始めてみてくださいね。

ハサミ屋はやしでは、ハサミ研ぎ師の店長がお客様の大切なハサミを心を込めて研ぎメンテナンス致します。お客様が実際に店舗でハサミを使ってお仕事をされているシーンを思い描きながら、どのような切れ味に仕上げれば喜んでいただけるかを考えながらハサミを1丁1丁仕上げております。またシザーアドバイザーとしてお客様のカット技術や感性に合うよう、ハサミのカスタマイズも行なっております。

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